純×恋(じゅんれん)
壁に背を預け,床にすわっていた純の肩を遥はトンっと押す。

異変を感じて顔をあげた純の顔に,遥は大きく影を作っていた。

じわじわと純が目を見開く。

それを見て,遥はくすくすと意地悪げに笑った。



「きいとちゃん,ホントに俺のタイプど真ん中。去年から思ってたんだよね~俺」



そんなの,知りません。

乾いた喉からせり上がっては落ちていく。

状況を飲み込めない純に,遥は更に迫ろうとした。



「ブザーがなりますよ!!!!!」



両膝をぎゅっとくっつけて,目を瞑った純が叫ぶ。

相手も驚いて,ぴたりと止まった。

触れられたく,ない。

だけど,それよりも。

純はその距離に至るのを,人に知られたく無かった。

何より,恋に伝わって欲しくなかった。

ただでさえ近い今,あと数センチ動けばブザーは寮全域に鳴り響く。



「減点,ですよ! 遥くん。遊びはそこまでにしてください」



分かってる。こんなのきっと悪ふざけ。

遥は透けて見えるような純の思考を読み取り,また苦笑した。



「減点は……困るな。まゆゆに怒られちゃう」



可愛い語感でパートナーの名を呼びながら,遥は両手を挙げて降参する。



「あ,きいとちゃん。今さっき買ってきたプリン食べる?」



そして



「さっきほんとはそれ聞こうと思ったんだよね~」



と調子のいい遥は純に尋ねた。

純はとっくに遥の話など聞いていない。

(あとみっか)

純は混乱でばくばくと鳴る心臓を抑えて,ゆっくりと深呼吸をした。

ー恋くん,大丈夫かな……

結果としてこの出来事は,純の不安を一層煽ることとなったのだった。
< 15 / 28 >

この作品をシェア

pagetop