純×恋(じゅんれん)
混乱している純の前で,真優が遥の体を更にぎゅっと抱き締める。



「流石にひどいんじゃん? 遥。手持ち無沙汰ならさ,いい加減……。運命の人(あいて)は私じゃだめってわけ?」



遥はその言葉を受けて,驚いたように真優を見つめた。

真優が目に涙を溜める。



「……っ。あー,その。きいとちゃん,ごめんね。確かにタイプだったけど,あれだ。今は俺,まゆゆのがめっちゃかぁいい気する」

「は,はい」



冗談だと思っていた純は目を白黒させて,なんとか返事をした。

まさか突然自分に振られるなんて思っていなくて,どきどきと心拍数があがる。



「なに? きいとあいつに告られたの? 何気にきいと呼びもそろそろムカつくし」

「いえ,それは……」



なんだかまた違うような。

なぜ不機嫌なのか。 

なぜ突然ルールを違反して,尚且つまだ自分を離してくれないのか。

純には沢山の疑問があった。

ちぅっと小さく音が聞こえる。

それは,真優の目の端に溜まった涙を,遥が恥ずかしげもなく吸いとった音だった。

次に真優の真っ赤な顔が見えて,それを遥が覆い隠す。

純もまた,さっと顔を背けた。



「…俺達もしとく?」



ぎゅっと首の前に回った手に力が込められて,純は顔を赤く染める。



「誰が!」



飄々として聞こえたそれも,咄嗟に見上げた首の(あか)でそうではないのだと純は知った。

お互い微妙な空気が流れて,俯く。 

応戦するように拒否をした純は,悶々と考えていた。

(別に,本当に,死ぬほど嫌だったわけでは……)

なんだか惜しい事をしたような気持ちになる。



「じゃあ,また今度って事で」



先に痺れを切らした恋が,ぎゅっと純の手を引いた。



「色々聞かせて貰いたいことがあるけど」



引かれた手の温もりに,今度と言うその言葉に。

きらりと純の瞳が光る。

そのはにかみ笑いを見たクラスメートの女子は



「「可愛い~!!」」



と,きゅんとしたとでも言わんばかりに両手で自身の顔を挟んだのだった。
< 20 / 28 >

この作品をシェア

pagetop