純×恋(じゅんれん)
「私も……きっと,誰でもいい訳じゃなかった。ようやく,分かった気がするの。これが,恋で。これが大きくなったら,愛になるんですね。相手を想い慕う気持ち……そっか……」



純が勢いよく顔をあげる。

その瞳は,爛々と輝いていた。



「恋くん! 私と結婚してください!」



生まれて初めてのプロポーズ。

純のそれは,まさにド直球。

またそれを受ける恋も初めてで,恋は苦笑しながら口の端をゆっくりと持ち上げた。



「まずは……婚約者でどう?」



恋が言うと



「今までもそうですよ」



スタンと,純が瞳をくりくりさせながら答える。

こてっとゆるく傾げられた首。



「本当の意味で」



さらりと流れる髪やうなじを見ながら,恋はそう言い直した。



「……いいですね」



純も満足げに頷く。



「今度こそ目指す? ゴールデン」

「そーですね……」



恋の言葉を受けて,考えながら返事をした純はぴたりと止まった。

自然と生返事になる。

……

純は気付いてしまった。

もう,金の夫婦を(ゴールデンカップル)目指す必要がないことに。

どのみち研究に関わる課題で減点を頂くのだから,とっくに望みはないのだけど。

(えーと。恋くんは,何て言ってたんでしたっけ…?)

純の頭が,どんどん傾いていく。

それを咄嗟に支えた恋が,確認するように純に訊ねた。



「きいと,選ばれても補佐って言った?」

「はい!」



自分に社長なんて,そんな重役は務まらない。

既に多くいる社員さんにも,申し訳がたたないと思う。



「俺,1番にはなれない。つまり,トップに立つ社長は無理。才能ない。やる気もない」

「じゃあ…」

「うん。だめじゃん」



表向きはダブル社長だとしても…それでは。

誰が社長をするのだという話になってしまう。



「お金が目的じゃないんだよね?」

「社長になりたいわけでもないんですね?」



お互い確認して,2人で微笑んだ。

柔らかく,何の不安もない。



「「じゃあ転科」」

「するか」「しましょう」



偏差値も高く,普通科に移った所で咎める人なんていないはずだ。



「今まではふんわりだったけど,俺ここ,本気で就職するわ。出世しまくって,社長の真下(ほさ)あたりにつけるように頑張る。だから…収入は安心して」

「はい,頼もしいです。私も,頼りきりにならないように,早く就職先決めて頑張ります」

「きいと」



純は,恋の呼ぶその柔らかさが好き。

笑みを深めて



「なんですか?」



と聞く。



「卒業して,お互い身を預けあえるようになったら……」

ー俺と,結婚してくれる?



照れ臭く,とても嬉しい言葉にお誘い。



「婚約者からなんじゃなかったんですか?」



くすくすと笑えば



「そうだった。また,ちゃんとプロポーズするから。その予約」



恋も甘い返事をくれた。

 

「楽しみにしてますね。とびきりロマンチックにお願いします」 
 


そんなわがままを言っても,恋は



「はいはい」



と笑うだけ。


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