純×恋(じゅんれん)
「腹,痛いの?」

「ごめんなさい,恋くん。そんな風に見えましたか?」

「うん,まあ。違うならいいけど」



恋の手には,熱そうなココアが入ったマグカップ。

駆け寄ろうとしたために,ココアが靴下の横に点を作っていた。

とても優しい人。

気遣いの出来る人。

話し合いもなくやってこれたのは,お互いの思いやりが基のはず。

ゆっくりと立ち上がる。

たっと駆け寄ると,恋には珍しく大きく目を丸くして,驚いた表情を浮かべた。

その顔を,キッと見上げる。

こんなに必死になったのは,ここに来て初めてのような気がした。



「今からでも,今からでも……お互いを知る努力をしませんか…!」



震えもせず真っ直ぐ飛び出た言葉は,確かに恋へと届く。

それを確証付けるように,恋の瞳が揺れた。

(私達はきっと)

上手くいっているようで,行っていない。

仲の悪いペアよりもずっと後ろのスタート地点に2人で座って,2人で交互にお弁当を作っては広げて,また座っている。

純はもう2·3回自分の気持ちを確かめて,飲み込んだ。

純を突き動かしたのは,単なる憧れ。

けれど,あの日確かに生まれた期待(ときめき)



『世界一の結婚をしてもらうためだ!』



(私は愛ある結婚を諦めない)

強く心に置いた純の瞳には,恋だけが映っている。

2人の間で,ココアの液面が揺れていた。
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