勇者の幼なじみ

旅立ち

 私の幼なじみは勇者だった。

 勇者を指し示す魔道具に導かれ、国の偉い人が迎えに来たとき、やっぱりねと思った。普通の人とはどこか違うと思ってた。
 セフィルは天から選ばれた人を体現するように、その見た目は美しく、勉強も運動もなんでもできた。
 学校でも神童と言われ、剣を取れば先生さえ凌ぎ、魔法だって、幾種類も使えた。
 こんな田舎の街にいていい人じゃないと言われてた。
 


「ファラ、いいか、よく聞け」

 セフィルは少しクセのあるプラチナブロンドを掻き上げ、溜め息まじりに私に言った。
 形の良い眉がひそめられ、空色の瞳が私を見下ろす。

「お前みたいなチンクシャ、誰も相手にしないに決まってる。仕方ないから俺がもらってやることにする。感謝しろ。だから、余計なことはしないで、大人しく俺を待ってろ。いいな? わかったな?」

 整った顔が憂いを帯びて、彼が瞬きするたびに、長い金色のまつ毛が揺れる。
 それを綺麗だなーとぼんやり見ていると、彼はまた溜め息をついて、私の両頬をつまんだ。

「ファラ、聞いてるのか?」
「ふぁ~い」
「お前はバカだから、心配だな。ホイホイと知らないやつについてったりするなよ?」
「ふぁい」

 私の気の抜けた返事を聞くと、セフィルはますます顔をしかめて、手を放した。
 でも、そんな顔でさえも魅力的な彼は、この街を出て、勇者として活躍すれば、モテまくるだろう。
 今でも半端なくモテるけど、きっと次元が違う。
 
(お姫様と結婚しちゃったりして)

 きらびやかなセフィルとキラキラした空想上のお姫様の結婚式を思い浮かべて、なんてお似合いなのかしらと思わず溜め息が出た。
 私の前ではしかめっ面しかしないセフィルが、想像の中では幸せそうに微笑んでいる。
 ズキンと胸が痛む。
 今は幼なじみのよしみでこんなことを言ってくれてるけど、広い世界に出ればきっと私のことなんかすぐ忘れてしまうだろう。

「ファラ、本当にわかってるのか? もう一度言うが、お前は大人しく俺の帰りを待ってればいいんだ。わかったな?」
「うん」

 心とはうらはらに私は素直にうなずいて、にぱっと笑った。
 旅立つセフィルに心配をかけたくなかったから。

「セフィル、くれぐれも気をつけてね。魔王が怖かったら逃げてもいいんだからね」

 私の言葉に国の偉い人は目を剥いた。

「バカか! そんなわけにいくか!」

 セフィルはあきれた顔をして、今度は私の鼻を摘んだ。
 だって、どんなにカッコ悪くても、セフィルが死ぬよりも帰ってきてくれた方がいい。ううん、どこかで幸せになるのでもいい。この世界にセフィルが生きていてくれるだけでいいもの。
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