勇者の幼なじみ

手紙

 お互いの呼吸が静まったころ、私は聞いてみた。

「セフィル、これで呪いは解けた?」

 ビクッと身を震わせ、セフィルは後ろめたそうな顔をした。

「……バーカ。呪いなんて最初からない。お前は王女と俺に騙されてたんだ。軽蔑するか?」
「え? セフィル、呪われてなかったの? よかった!」

 うれしくて、にぱっと笑うと、「お前な~」とあきれたように言われ、抱きしめられた

 その体勢のまま、セフィルが説明してくれた。

 魔王を倒したというのに王宮に留めおかれ、イライラしていたのに、その上、王女と結婚するように言われて、セフィルはキレた。地元に結婚を約束した幼なじみがいるから王女とは結婚しないし、邪魔するなら、今後一切、王国には協力しないと言い切ったそうだ。
 すると、王になだめられ、褒賞を用意するから、もう少しだけ留まるように言われた。
 仕方なく待っていると、王女が私のもとに向かったという情報を得て、慌てて帰郷した。
 
「俺の姿を見て、ファラの両親は驚いてたよ。俺の呪いを解くために、ファラは修道院で神の花嫁になると言って出ていったばかりなのにって」
 
 あの女狐め!とセフィルは歯噛みしたそうだ。
 それで、慌てて私を追ってきて、修道院に忍びこんだところ、偶然窓を開けた私を見つけたのだった。
 
「どうしてセフィルまで、呪いにかかってるって言ったの?」

 素朴な疑問を口にすると、彼はグッと詰まった。

「お前の純潔を奪えば、もう神の花嫁になれないだろ?」
「え、たぶん、なれるよ? ここに入っている人って高齢な人が多いし、子どもに先立たれてって人もいたし」
「そうなのか?」
 
 がっくりしたセフィルにさらに疑問をぶつけた。

「三年も音沙汰なかったのに、どうして私と結婚しようと思ったの?」
「音沙汰なかったのはお前じゃないか! 俺は何度も手紙を書いたのに、一度も返事をくれなかったよな?」
「え? もらってないよ?」
「なんだと⁉ ……あいつら~!」

 聞くと、セフィルは私に何通も手紙を書いてくれて、従者に預けていたそうだ。返事が来ないのもおかしいとは思ったけど、移動に移動を重ねてたから仕方がないと思ってたらしい。

「セフィルの手紙、読みたかったなぁ」

 彼が街を出るまで、ずっと一緒だったから、当然、手紙なんてもらったことはなかった。
 たぶん、処分されてしまった手紙を思って、がっかりしていると、ためらいがちにセフィルが言った。

「……お前がどうしても読みたいと言うなら、まだ出してない手紙を持ってるけど?」
「読みたい! ぜったい読みたい!」

 私の勢いに、セフィルはしぶしぶというようにカバンをあさり、一通の手紙を取り出した。
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