勇者の幼なじみ

幼なじみの私たち

 セフィルと私は隣の家同士で、一緒に学校に通っていた。
 といっても、セフィルの家は日用品なら扱わないものがないという大きな商会で、うちはしがないパン屋だったので、本来なら交流もないぐらい家柄の格差があった。

 初めてセフィルに会ったのは、パンの配達をするお母さんについていったときだった。
 くるくるの天然パーマにぱっちりした青い目のセフィルは綺麗で可愛くて、思わず見惚れた。
 すると、視線に気づいたセフィルが「人のことをじろじろ見るな、ちんくしゃ!」と毒づいた。 
 幼いセフィルは天使のような見た目だったけど、口が悪いのは今と同じだった。
 
 セフィルは見かけるたびにいつもひとりだった。
 ご両親が商いに忙しくて、セフィルをかまっている暇がないらしかった。
 彼が気になって気になってしょうがなかった私は、ある日とうとう言ってしまった。

「セフィル、さみしいの?」
「さ、さみしいわけあるか! バーカ」

 そう言った彼が本当にさみしそうだったから、思わずハグをした。

「な、な、なにするんだ!」

 セフィルが固まったあと、ジタバタした。

「こうしてるとさみしくないよ」
「だ、だから、おれはさみしくないって……」
「うん、わたしがさみしいの」
「そ、そうか。それならしかたないな。ゆるしてやる」

 セフィルはおずおずと私の体に手を回した。
 私たちはしばらくハグをしていた。
 
 それから私はセフィルがさみしそうだと感じたときは、遠慮なくハグをした。
 バカだのボケだの言われたけど、ぎゅっとしがみついてくる彼の腕にうれしくなって、ふふっと笑う。そして、また「なにわらってるんだ、バ~カ」と言われた。

 私はセフィルによくチンクシャとかチビとも言われた。
 最初は同じくらいの背たけだったのに、セフィルはすぐ背が伸びて、スラリとした体躯になった。
 私だって成長してたけど、セフィルの肩まで伸びたところで、どうやら止まってしまった。
 背が高く、見惚れるほど綺麗な顔のセフィルからしたら、私はチビでチンクシャなんだろうなぁと納得だった。

(それなのに、いつからだろう? セフィルが私の世話を焼いてくれるようになったのは)

 私があまりに道でこけたり、壁にぶつかったり、どんくさかったから、なんでもできるセフィルは放っておけなくなったのかもしれない。
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