勇者の幼なじみ
 カバンが軽いなと思ったら、教科書を全部家に忘れてた。「なんでそんなもん、忘れるんだ? バカだろ」と言いながら、セフィルが一日教科書を見せてくれた。
 次の日から、セフィルの持ち物チェックが入るようになった。
 荷物が重いときには、さっと取り上げられる。
「お前のトロいペースに付き合いきれないからな」と無愛想な顔で。
 
 お昼を食べていると「だらしないな。女だろ。気をつけろ!」とセフィルに叱られ、口もとを拭われる。ソースがついてたらしい。口調と違って彼のその手つきは優しくてポーッとする。「ボケッとするな」とまた叱られた。

 実験の授業でなぜか混ぜた液体が爆発……セフィルが「バカッ!」と魔法を発動させて、防御してくれる。身を盾にして守ってくれる彼にキュンとする。
 でも、そのあと、しこたま怒られた。
 
 テストは赤点を取る前に、「こんな問題もわからず、よく進級できたな」とあきれながら、セフィルが教えてくれた。「バカ! そうじゃない!」と言いながらも、教え方は丁寧で上手だった。

 階段を踏み外し、足をひねったときには、「重い!」とブツブツ言いながら、セフィルがおぶって帰ってくれた。
 彼の背中に全身がくっついているし、顔も近くてドキドキしっぱなしで、心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかと思った。
 セフィルは終始しかめっ面で、私の家に着くと、お礼を言う私の顔も見ずに、ぷいっと帰っていった。
 重い私を運んで疲れちゃったのかなと今でも申し訳なく思う。
 
 この間もセフィルがダダダとすごい勢いでやってきたと思ったら、スカートがパンツに挟まってめくれてた。
 「なんてガサツなんだ!」と怒りながら、セフィルがパパッと直す。
 「ぎりぎりパンツ見えてなかったよ~。よかったよかった」と笑うと、ギロリと睨まれた。
 なぜかセフィルが周囲に向けて忘却魔法を使ってた。

 ……今さらだけど、いっぱいセフィルに迷惑かけてたなぁ。
 ちょっと思い返すだけでも、あとからあとから頭を抱えたくなる迷惑エピソードが浮かんでくる。
 それなのにセフィルは優しいから、幼なじみというだけで、文句を言いながらも、私に付き合ってくれていた。
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