勇者の幼なじみ
「お前みたいなどんくさくいチビ、隣同士じゃなけりゃ、相手にしないんだからな!」
「俺の幼なじみだからって勘違いするなよ? お前と俺はそれだけの関係だ! 誰かに嫌がらせされたら言え。俺がよ~く説明してやるから」
セフィルの言葉はいちいちもっともだ……。
優しいセフィルは不甲斐ない幼なじみを構わずにはいられなかっただけなんだよね。
セフィルを好きな女の人たちから、さんざん嫉妬されたけど、そんな必要はないと言って回りたかった。
『あんたなんか、ぜんぜんセフィル様と釣り合ってないのよ! 図々しいわ!』
『いい加減、セフィル様から離れなさいよ! 見苦しい!』
そんなこともさんざん言われた。
わかってる。そんなことは一番私がわかってた。
それでも、私はセフィルが隣にいてくれるのに甘えた。
好きだったから。
絶対に言えなかったけど。
それを告げたときのセフィルの困惑した顔が容易に思い浮かんでしまうから。
私はセフィルの幼なじみという地位にしがみついていた。
でも、そんな日々も終わった。
私はセフィルなしでやっていかないといけない。
なのに、なにをしていても、セフィルのことから頭が離れない。
ちょうど学校は卒業したところなので、私は家業のパン屋の手伝いをしていた。
今までも学校が休みの日は店番とかパン作りのお手伝いをしていたので、慣れてはいる。でも、私が作ったパンは不格好で売り物にならず、「しょうがないから俺が処分してやる」といつもセフィルがもらっていってくれた。私の手に代金を押しつけて。
出来損ないのパンを自分で食べながら、思い出してしまい、泣きそうになる。
「あ、これは塩を入れすぎだわ……」
そう思ったものの、しょっぱいのはパンのせいなのか涙のせいなのか、わからなかった。
店番をしていても同じだった。
なぜか男性客に絡まれやすい私は、いつもセフィルに庇われていた。
私がひとりで店番をするときは、セフィルも一緒にいてくれた。「ただの社会見学だ」と言って。
おかげで、女性客が増えた。
でも、セフィルはもういないから、自分でなんとかしないといけない。
そう思っていたのに、男性客に手を掴まれたとき、バチッと音がして、男性客が慌てて手を離した。
どうやら、セフィルがなにか仕込んでいったようで、不用意に異性が私に触れると、電撃が走るようになっていた。
たぶん、誕生日にセフィルからもらったピアスだ。
セフィルの瞳と同じ空色のピアス。
初めて装飾品をもらって、有頂天になって、すぐにつけたものだ。
『俺がわざわざやったんだから、絶対に肌身離さずつけろよ』
セフィルはそう言ってた。
離れてもセフィルに守られている気がして、涙ぐんだ。
ずっと一緒にいたから、隣にセフィルがいないのがさみしくてさみしくて……。
でも、だんだん慣れていった。うそ。恋しくて恋しくて恋しくて、泣きたくなる日々だった。