世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!
 野崎の話を無視して結花は退出しようとするが「ここはありがとうございました。よろしくおねがいしますって言ってください」と止められる。
 しぶしぶ「ありがとうございました。よろしくおねがいします」と言うが、棒読みでまるで馬鹿にするような言い回しだった。
 結花は着替えてからバックヤードに目を向ける。
 事務机と椅子が並べられていて、おばちゃん3人と、男性2人だろうか。
 おばちゃん達も男性2人も固まって座っている。
 結花は当然後者の向かいの席に座って、やっほー、元気? と声をかける。
 男性2人はいきなり声をかけられて、顔を見合わせる。
「お、お疲れ様です」
 大人の対応をして、スマホとち睨めっこしながら、パンを齧った。
「ね、名前は? 年はいくつ? 彼女いるの?」
 矢継ぎ早にプライベートのことを質問されて、男性達は結花と顔を合わせないように必死になる。
 返事をしてくれないのか、結花は拗ねるように、鞄から菓子パンとペットボトルのお茶を取り出した。
「ゆいちゃん、今日から来たから、わかんないことだらけでー。野崎って人はうるさいし……」
 そこから始まる野崎に対する悪口。甲高い声に負けないように有線が流れる。
 男性の一人がおばちゃん達に勘弁してくれと目線を送った。
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