世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!
 電子化されている病室のネームプレートに、呉松周子(くれまつちかこ)様と表示されていた。
 他にいつ入ったかや担当医師・看護師やケアマネの名前なども一緒に載っていた。
「え、ちょ、ここって?」
 何一つ状況に気づいていない結花に、良輔は内心呆れていたが「老人ホームだけど」と短く返した。

 なんで、お母さんだけ老人ホームなの?
 お父さんは一緒じゃないの?
 お母さん寂しいじゃん! というかお父さんも意地悪じゃない?

「ねぇ、なんで、お母さんここにいるの? お父さんは、なんで家なの?」
 結花は良輔の肩を揺らして「どういうこと」と尋ねるが、何も答えない。
「ほら、さっさとはいるぞ」
「りょーにー! おしえてよ! どうせ、りょうにいが追い出したんでしょ! 教えないと、あんたの口うるさい嫁に直接聞くから!」
 
 キャンキャン喚きそうな声で、良輔は心底不愉快そうに顔をしかめる。
 アラフォーになっても、落ち着きのないしゃべり方が身内でいると眉をしかめたくなる。しかも妹という立場だから尚更。
 鼓膜を破く勢いだから余計嫌になるし、こいつとしゃべった後は、すぐ頭が痛くなる。
 まるで超音波いや、怪音波だ。

「あのな、少しはトーン落とせ。ほら、他の利用者が見てるぞ」
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