世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!
「柿本さん、コーヒー淹れなおししてくださる? 二人分ね」
 母が穏やかな声でお願いして、柿本さんは「分かりました」と淡々と返事する。
「柿本さん酷いわねぇー」
 母が寄ってきて私の肩を叩く。
「そうよ! あのババア早くくたばらないかなー」
「もう終わったことなのにね。今更蒸し返されてもねぇ」
 コーヒーを淹れる柿本さんに視線を向ける。
 柿本さんは私たちの会話は聞こえないと言わんばかりに、せっせと淹れる。
「はい、お待たせしました」
 声に張りがないというか冷めたような口調。
「なんなの? その態度。顔ムカつくわ。ただでさえブサイクなのに、さらにひどいわ」
 難癖つけてやろう。私をイラつかせた罰として。
「あら、さようでございますか? 見た目だけのお嬢様はおっしゃることが違いますねー」
 柿本さんは私の嫌味に反応せず「私は風呂掃除してますので」と淡々と告げてリビングを後にした。
「態度悪いわ。あのババアさ、クビにして!」
「柿本さんは優秀な方よ。他にやるのはもったいないから」
 母は頬に顔をあてる。遠回しにやめさせないでと言っている。
 私は言い返されたり、注意されるのが非常に不愉快だ。
 私は世界一可愛いんだから。何しても許される。
 何で昔のことを蒸し返されなきゃいけないのよ!
< 63 / 928 >

この作品をシェア

pagetop