世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!
 周子がグループ内のボスみたいな所があるからだ。
 特に年配の人達は呉松家という名前だけで、変に(おそ)れている。なんとなく逆らえないような雰囲気だ。
 周子もそういうのを自覚しているのか無自覚なのか分からないが、他の利用者に無言の圧力をかけていた。
 利用者の中には、昔呉松家にお世話になった人も少なくない。

 呉松家は遡れば江戸時代中期に遡る。
 元々呉服屋をやっていた。江戸時代末期に、偉い人との繋がりが出来、明治時代になる頃には、華族まではいかないが、地元の指折り有力者扱いになっていた。
 その頃から政治界に顔だすようになり、地元の議員になった人もいる。周子の父や祖父、叔父がそうだった。
 そのため周子は子供の頃から何不自由のない生活を送ってきた。
 呉松家では長女または長男が本家の跡継ぎで、子供の頃から優遇されるという暗黙のルールがあったから。
 下の兄妹は分家に引き取られるというものだった。

 そのため周子は両親から猫かわいがりされ、親族からちやほやされてきた。
 同級生や近所の子の集団就職先として、呉松貿易は定番だった。
 そこでかつてお世話になったという人達が、今こうして、利用者として何人か入所している。
 当時働いていた人は、周子から陰湿な嫌がらせを受けている。
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