世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!
「なにいってんの! さっさと仕事する! あんた自分の立場分かってるの?!」
 結花の文句に怯むことなく、丸岡は早く立ちなさいと促す。
 しぶしぶ立ち上がって、結花はモップをけだるげに動かした。

「お、呉松さん、仕事はどう?」
 男性の声が廊下に響く。
 結花のもとに近づき「掃除係も悪くないでしょ?」と口角を上げて笑みを浮かべた。

 黒のスーツに青のネクタイ。胸元には浅沼とシルバーの社章がついている。
 まあるい顔に凜々しい目元と少し白髪がかったスポーツ刈りの細身の男性。
 背は170あるだろうか。杖をついていた。

「あんた誰よ? こんな仕事やりたくないんだけど?」
 結花はけんか腰で男性に詰める。 
 あんた呼ばわりする結花に対して、丸岡は血相を変えて「すみません、うちのスタッフが失礼なことをして」と結花の頭を下げさせようとする。
「あんたって、この方、ここの社長よ? 浅沼さん」
 小声で注意するが結花は無視する。
「いいよ、頭あげて」
 浅沼の穏やかな声で2人は頭をあげた。
「あんた社長? ふっ、全然似合わないし。しかも杖ついて、仕事できんの?」
 結花は浅沼の姿を見て笑いながら「こんな人が社長とかマジうけるー」と失礼な態度を変えない。

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