僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
天宮くんは部室のスペアキーを渡してくれて、私は昼休みのたびに部室で食べるようになった。

昼休み、天宮くんは部室に来ることもあったけど、来ないこともあった。

逃げ場を作ってもらえたことで、私の学校生活は大分楽になった。

そして天宮くんは、私を撮り続けた。

普段はおどおどして目を合わさないのに、カメラを構えた瞬間、人が変わったみたいに目つきが変わる。

あの独特の目線を感じると、雷で打たれたみたいに、私の背筋が伸びるのだ。

――カシャッ!

シャッターを押す音が、私の弱い心を奮い立たせる。

元不登校で不器用で役立たずの私は、この先もそのままなのだと思っていた。

誰にも気づかれず、学校生活という泥水の中を、溺れそうになりながら泳ぎ続けないといけないのだと思っていた。

だけど天宮くんは、そんな泥水の中から私を救ってくれた。

私を見透かすカメラマンの目と、静かなのに胸を打つ言葉で。

それが意図したものなのか、もともと彼がそういう人なのか、はっきりとは分からないけど。

とにかく、こんなにも私なんかにまっすぐ向き合ってくれた人は、初めてだった。

叶うなら、そんな彼に、この先も撮られたいと思う。

天宮くんのカメラの中は、傷ついてばかりの十七歳の私にとって、この世のどこよりも居心地のいい場所になっていた。
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