僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
うなずくと、天宮くんはホッとしたように口元をほころばせた。

そしてどこかしら楽しげに、また私に向けてカメラを構える。

天宮くんのカメラの中には、もうすでに、かなりの数の私のポートレイトが入っているはず。

ふと脳裏をよぎったのは、廊下に掲示されている、天宮くんの白黒の写真だった。

最近知ったことだけど、天宮くんはいつも、撮った写真をすべて白黒に加工するらしい。

少し前に、部室にあった天宮くんの撮った写真を、二階堂部長が見せてくれたことがある。

この世から色という概念が消えたみたいに、すべてが白黒だった。

二階堂部長曰く、白黒写真は『芸術家肌の天宮のこだわり』らしい。

やっぱり私の写真も、白黒に加工されているんだろうか?

そんな考えにいたったとき、そういえばと思い出す。

部室にあった天宮くんの撮った写真の中に、ポートレイトは一枚もなかった。

天宮くんがポートレイトの練習を始めたのは、本当につい最近みたい。

< 117 / 308 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop