僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
「分かりました。じゃあ、もう一度餌やりますよー」

棒読みの、ちょっとめんどくさそうな天宮くんがおもしろい。

私もスマホを取り出して、撮影に挑戦してみることにした。

私のスマホではシャッタースピードやISO感度は変更できないので、水しぶきではなく、鯉の撮影に専念する。

赤白、赤、黄色、金色、白、赤白黒、黒赤。

こうして見ると、鯉の模様は多種多様で、色鮮やかだ。

この生き生きとした色彩を、うまく撮れるだろうか。

ドキドキしながら撮影をしていたとき、一匹の鯉がぴょんっと体をくねらせながらひときわ大きく跳ねた。

パシャッとあたりに飛び散る水しぶき。

「……わっ!」

思った以上の量の水が降ってきて、私は濡れる覚悟で目をぎゅっと閉じる。

だけど水を浴びることはなく、代わりに視界が陰で覆われた。

「大丈夫?」

目を開けると、見たこともないほど近くに天宮くんの茶色い目があった。
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