僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
体温を感じるくらい、体の距離も近い。

「あ、えっと……」

なぜか、胸の奥の方がひどくざわついた。

「スマホ、だいじょうぶ? 水かかってない?」

再度確認するように聞かれて、私はようやく我に返った。

天宮くんは鯉の水しぶきから、私そのものというよりスマホを守ってくれたらしい。

たしかに精密機器のスマホが濡れたら大変だ。安い機種だから、防水機能も怪しいし。

「うん、大丈夫。ありがとう」

天宮くんが、ホッとしたように表情を和らげて体を離した。

天宮くんの体でふさがれていた視界がクリアになる。彼の背後に急に映り込んだ真っ青な空が眩しい。

私をかばって水しぶきを浴びたせいで、天宮くんの髪が濡れている。

「ごめん、天宮くん。私のせいで濡れてる」

私は慌ててリュックからハンカチを取り出し、天宮くんに渡した。

「いいよ、別に。暑いからすぐ乾くし」

「いいから使って」

そう言ってやや強引にハンカチを押しつけると「じゃあ……」と天宮くんはおずおず受け取った。

私のハンカチで濡れた髪を拭く天宮くん。

耳が、ほんのり赤くなっているように見えた。

また胸の奥の知らないような部分がざわつくのを感じて、私は居ても立っても居られないような、落ち着かない気分になっていた。
 
< 123 / 308 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop