僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
丸一日撮影を満喫した後、私たちは併設されている宿舎に向かった。

男子チームと女子チームに分かれて部屋に入る。バス・トイレつきの六畳間の小さな部屋だ。

ここで、今夜は二階堂部長と一晩過ごす。

「古いけど、きれいなところやな~」

二階堂部長が、満足そうに部屋の中を見て回っている。

それから窓を開けて、「あ~、遠くに海が見える~!」とはしゃいでいた。

「来年の合宿は海もええな。私と佐方はもういてへんけど」

出窓に座り、カメラをいじりながら、二階堂部長が寂しげに言った。

そうだった。

二階堂部長と佐方副部長は三年生だから、来年はもういないんだ。

「でも夏生ちゃんが入ってくれて本当によかった。うちの部本当に人気なくて、来年廃部確定やったから。部員が三人いるなら考えてやるって先生に言われて、これでどうにか来年も首がつながりそうやわ。母校で自分の部活が廃部になってたとかイヤやもん」

三人とは、天宮くん、高安くん、私のことだろう。

まさか自分の何げない入部が、写真部の危機的状況を救っていたなんて思いもしなかった。

「新入生が入ってくれたらいいですね」

「ほんまそう」

深くうなずく二階堂部長。

そこで二階堂部長が、暗めの声から一転して、急に声のトーンを明るくした。

「ところで、知ってた? 天宮のこと」

「天宮くんのこと、ですか?」

「夏生ちゃんは知らんと思うけど、あの子今まで、景色しか撮らんかってん」

首を傾げる私に、二階堂部長はますます意気揚々と声を放つ。
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