僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
色をなくした世界に、突然色が咲いたみたいで、圧倒されるほどきれいだった。

人は心からきれいだと思うものを見たとき、すべてを忘れてしまうらしい。

花火に魅せられた私は、不登校だったことも、クラスでうまくいっていないことも、本当の私を見てくれない両親に不満があることも、自分が大嫌いなことも、なにもかもを忘れていた。

きれい。

ただただ、その感情だけが私のすべてを埋めつくす。

――カシャッ!

ようやく花火以外の音が耳に響いて、我に返る。

音のした方に顔を向けると、天宮くんが私を撮っていた。

ひまわりのとき話していたように、ポートレイトの練習中だからだろう。

だけどどんなこだわりのマイルールがあろうと、ここはさすがに花火を撮るところだ。

花火なんて、カメラマンがこぞって撮影したがるものなのに。

二階堂部長が変人呼ばわりした佐方副部長ですら、今は花火を撮るのに夢中だ。
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