僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
「悪化することはあっても、治ることはないってはっきり医者に言われた」

今度こそ、私は返事に詰まった。

色という概念がないなんて想像もできない。

「親と担任の先生以外に言っていないんだ。だから秘密にしておいてほしい」

「……うん、分かった」

色彩が抜け落ちた世界は、どんなかんじなんだろう。

色のない線だけの世界をひたすらカメラに収めるのは、どんな気分なんだろう?

こんなときに気の利いたことを言えない自分が、死ぬほどもどかしい。

「夏生さんに頼みがある」

複雑な思いでいると、天宮くんが言った。

顔を上げると、天宮くんの茶色い瞳が、いつになく切実に私を見つめている。

何かを請うような瞳の揺らぎに、胸がじわじわとしめつけられるようだった。

「僕に色を教えてほしいんだ」
 
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