僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
あさぎ
色覚障害という病気がこの世にあるとは知らなかった。

スマホで検索したところによると、色を認知する機能に異常があり、ほかの人とは色の見え方が異なる病気らしい。

色がまったく分からなかったり、一色だけは認知できたり、全体が青っぽく見えたり、症状は人それぞれのようだ。

天宮くんはそもそも、自分の中に色という概念が存在しないと言っていた。

すべてが線と無色でしかない――そんな世界、当たり前に色を見てきた私には想像もつかない。

マリーゴールドのオレンジ、夕暮れの空の茜色。

新葉の緑、真夏の空の青、入道雲の白。

錦鯉の赤や白、夜空を彩る花火の無数の色。

すべてが、まったく認識できないなんて。

天宮くんが見ている世界に近いという、掲示板に貼られた白黒の写真は、心が空虚になるような孤独感に満ちていた。

人と違った世界しか見えないのは、きっと寂しい。

人は、誰かとつながっていないと生きていけない生き物だから。

天宮くんがときどき見せる寂しげなまなざしが、それを物語っているように思えてならない。
 
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