僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
寝る前、ベッドの上で、パラパラと買ったばかりの色辞典をめくってみた。

この本には、五百色もの色が載っていた。

世の中にこんなにも色があると思っていなかったから驚きだ。

聞いたことのないような色の名前もたくさんある。

それぞれ、歴史や名前の由来などが事細かく説明されていた。

色を知らない天宮くんに色を教えるには、言葉で伝えるしかなさそうだ。

だけど、どうやったら伝わるだろう?

文章力も語彙力もない私に、この役割がつとまるだろうか?

思い悩んでいると、枕元に置いたスマホが震えた。

天宮くんからメッセージが届いている。

あの日、天宮くんに夏休みの間に色を教えてほしいと言われたあとで、私たちは連絡先を交換した。

《来週の土曜日空いてる?》

空いてるよ、とすぐにメッセージを返す。

すると、時間と駅の名前が送られてきた。

この時間にここに集合という意味らしい。

天宮くんとのやり取りが終わってから、私はまた色辞典を真剣に読みふけった。

『夏休みの間、僕に色を教えてほしい』

どうして天宮くんが、私なんかにそんな頼み事をしたのか分からない。

それでも、できる限り協力したいと思っていた。

天宮くんは、言葉で助けを求められない私の気持ちをカメラ越しに見抜いて、いつも助けてくれた。

天宮くんのおかげで、私の世界は変わりつつある、

今度は私が、天宮くんを助けたい。
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