僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
それにこの本に書いてあるみたいに、〝かめのぞき〟は藍染をする際に瓶の中をちょっとのぞけば染まっていた色、という名前の由来を話したところで、どんな色か伝わるわけではない。

天宮くんにどうやったら色を教えることができるかという悩みは、ずっと堂々巡りだった。

「えーと、今日の空の色はね……」

本と空を交互に眺めながら考えてみたけど、やっぱりうまい説明が見つからない。

うーんとうなっていると、天宮くんがまたパシャリと私を撮った。

「いいよ、変だと思うような説明でも。夏生さんが見たまんまの色を、素直に表現してほしい」

「うん……」

歩きながら、かめのぞき色の空を見上げる。

見たまんま見たまんま、と心の中で唱えながら澄んだ空の青を見つめ続けた。

「広くて、おおらかで、心がスッキリするような色?」

伝わったかな? いや、絶対伝わってないだろう。
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