僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
「色が見えなくて、今まで困ったことはなかった?」

「あったよ。たとえば信号とか」

たしかに、信号が見えないのはかなり危険だ。

天宮くんが赤信号で渡りそうになった場面に、私も出くわしたことがある。

「子供の頃は、母親が心配して、いつも付き添ってくれてた。それでも何度か危ない目に遭ったことはあるけど……」

そこで、いったん言葉を区切る天宮くん。

カメラを手に持ち、ダイヤルを調整しながら、私の方は見ずに続ける。

「今は人が多い信号のあるところや、音の鳴るところ以外通らないようにしてる。どうしてもってときは、車の流れをよく見て信号を渡ってるかな。意外と何とかなるものだよ」

天宮くんは、端から見れば色覚障害を持っているとは分からない。

こんなふうに、子供の頃から、訓練したり気をつけたりし続けてきたのだろう。
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