僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
「あと、図工で絵を描くときも困ったかな。色鉛筆や絵の具の色が判別できないし、そもそも色自体を知らないから」

「どうしてたの?」

「空は青、太陽は赤っていうふうに、丸覚えしていた。どんな色か分からないけど、教えられたとおりに塗れば、普通に色が見えるフリはできたから。たまに間違えてそぐわない色を塗ることもあったらしいけど」

それはそれで芸術作品っぽくなって一目置かれたことがある、と天宮くんが笑う。

「色なんか分からないのに、言われたとおりに色を塗るのはかなり退屈な作業だったよ。うんざりしてたけど、皆と同じようにやっていくためにはこうするしかないって言われたら、何も言えなくなるよな」

波風立てるな、普通にしろ。

目立たないように、模範的な子供からはみ出さないように。

そういう静かな押しつけの残酷さは、私にも痛いほど分かる。
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