僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
九月の終わり、現国の時間に作文を書くことになった。

テーマは『十代の私の主張』。

自分が強く世の中に訴えたいことを書けばいいらしい。

悩んだあげく、私は思い切って、不登校時代に自分が思っていたことを書いた。

今までは学校に行っていなかった中学時代を黒歴史だと思っていたから、こうして誰かに堂々と伝えることができるようになったのは大きな変化だ。

それもきっと、心に余裕ができたからだろう。

天宮くんの奏でるシャッター音は、よりいっそう私の心を解放するようになっていた。

別に、世の中を変えたいなんて思っていない。

ただ、こういう子が世の中にいて、こんな思いをしていたということを知ってもらいたいだけ。

学校に行けない――言葉にするとそれだけのことが、どれほど孤独で、胸を蝕んで、心をズタズタにしているのかを知ってもらいたいだけ。

不器用すぎて世の中からはみ出してしまっても、人知れずたしかに息をしていることを、分かってほしいだけ。

タイトルは、『灰色の世界』。

現国の授業中、一気に作文を書き上げたあと、胸の奥底に淀んでいた鉛が飽和するような不思議な気分になった。
 
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