僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
その写真展には、佐方副部長が言っていたアメリカを代表する写真家の作品が、所せましと飾られていた。

天宮くんは、ひとつひとつの展示を、じっくり丁寧に眺めている。

本当に、写真が好きなのだろう。見ていて微笑ましい気持ちになる。

写真のことはよく分からないけれど、そんな私でも、ハッと目を引くような写真がたくさんあった。

中でも目が釘付けになったのが、リチャード・アヴェドンの作品、マリリン・モンローのポートレイトだ。

華やかな表の顔から一線引いた、裏の表情をとらえた写真。手の届かないような世界にいる人でも、素を暴けば私たちと同じ普通の人なんだと訴えかけているように見えた。

ポートレイトとは、単純に人物を撮影するだけでなく、見えない表情の奥まで映し出すことがあるらしい。

写真って、思った以上に奥深い。

天宮くんの撮った私のポートレイトは、どうなのだろう?

今まで一度も撮った写真を見せてくれたことがないので分からない。

練習用なのでもう消してしまったとは思うけど、彼がファインダー越しに見た私はどんな顔をしているのか、少しだけ気になった。
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