僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
中学ほとんど行ってないのに、高校って行けるんだ。

まあ、たいした高校じゃねえけど。

ジロジロと観察するような視線と、そのあと訪れた不自然な沈黙から、そんな彼の心の内が伝わってくる。

ドクンドクンと、いやな鼓動が加速した。

不穏な音を刻む心臓の音とともに、過去の記憶が鮮明によみがえる。

――『え、かわいそ。ぼっちじゃん』
――『かわいそうなら声かけてやれよ』
――『やだよ、お前が声かけろよ。ついでに付き合えよ』

灰色の世界からようやく抜け出し、世界が色鮮やかに見えかけていたのに。

まるで夢だったかのように、あの頃のどん底の気持ちに引き戻されていく。

背筋を冷や汗が伝った。

そのとき、すぐ隣に気配を感じる。

斜め前にいた天宮くんが、まるで山西くんから私をかばうように移動していた。

「エスカレーターで行く?」

耳に近いところで、そっと聞かれる。
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