僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
私は毎日、天宮くんに写真を撮られに病室に通った。

天宮くんと過ごして、分かったことがある。

どうやら天宮くんは、私を撮ることで安らぎを得ているらしい。

カメラで撮ったばかりの画像を確認しているとき、見たこともないほど穏やかな顔をしているから。

私は、ちゃんと彼の役に立てているようだ。

天宮くんはポートレイトを撮りたいだけで、モデルが別に私じゃなくてもいいのは分かっているけど、それでも満足だった。

十二月初め、病院前の大通りがクリスマスムードに染まってきた。

美容院の入り口に飾られたクリスマスツリーや、そこかしこで目につくクリスマスケーキの予約チラシ、どこかから流れてくる
クリスマスソング。

天宮くんの病室にあるサイドテーブルにも、看護師さんからもらったという、折り紙で作った小さなクリスマスツリーが置かれている。

窓の向こうの空は、キンとした冷えを感じさせる冬の水色をしていた。

あの空の色は、どうやって説明したら天宮くんに伝わるだろうか。

病室でソファーに座り、窓から空を見上げながらそんなことを考えていると、またシャッターを押す音がした。

いつの間にか、天宮くんがまた私を撮っている。

ファインダー越しに見る彼の顔は、柔らかく微笑んでいた。

最近天宮くんは、まったくおどおどしなくなった。こんなふうに微笑む姿を、よく見せてくれる。

挙動不審だった頃が、別人のように。

ようやく、私という扱いにくい人間に慣れてくれたらしい。

「そういえば三月にね、スピーチコンテストに出ることになったの」

「スピーチコンテスト? なんかすごいじゃん、それ」
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