僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
気づけば原稿を読み終わっていた。

まるで波にさらわれたような、あっという間の出来事だった。

一歩下がり、一礼する。

束の間の沈黙の後、会場内に拍手が沸き起こった。

パシャッパシャッと、あちこちからカメラのシャッター音がする。

ぼんやりとしたままホール内を見渡した私は、目を輝かせた。

真ん中の席に、カメラを構えた天宮くんの姿を見つけたからだ。

おとつい外出したときと同じ黒のジャケットに、愛用の一眼レフカメラ。

こちらをじっと見ていた天宮くんは、私の視線に気づくと、優しく微笑んでくれた。

遠目からでもはっきり分かるくらい、鮮明に。 
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