僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
すべてのスピーチが終わり、結果が発表される。

私は賞には選ばれなかったけど後悔はなかった。

賞を取って喜んでいる生徒、泣いている保護者、生徒の背中を撫でて励ましている先生。

会場内に、さまざまな感情が充満している。

皆が輝いていた。一生懸命に生きていた。

うまくいっているように見える人もそうでない人も、悩みながら、もがきながら、必死に自分のあるべき姿を探している。

人間はきっと、誰だって不器用なのだ。

そう思えたとき、憎かったこの世界が、急に愛しく思えてきた。

ステージの上で怯むことなくありのままの自分自身を語れた経験は、私を大きく変えたらしい。

同じ学校の子たちの輪から離れ、天宮くんを探す。

どこかで私を待ってくれているだろうと思ったからだ。

だけどどんなに探しても、天宮くんは見つからなかった。

会場から出てエントランスホールの方まで探し回ったけど、やっぱり見当たらない。

舞台からはたしかに彼の姿が見えたのに、もう帰っちゃったのかな。

らちが明かなくなって、エントランスホールの真ん中に立ち尽くす。

入り口の自動ドアの向こうを、薄桃色の桜の花びらが一枚、ひらりひらりと舞っていった。

きっと、この近くでも河津桜が咲いているのだろう。
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