僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
一緒に河津桜を見に土手に行き、学校にも行ったあの日が最期だなんて思いもしなかった。

別れ際、天宮くんとどんな言葉を交わしたっけ?

天宮くんはどんな顔をしていた?

動転した頭の中では、すべてが曖昧ではっきりとしない。

それでも震える天宮くんを抱きしめたときの温もりだけは覚えている。

溶けてしまいそうなくらいに大きくてあたたかくて――あの温もりがもうこの世にないなんて信じられない。

信じたくない。

私なんかより、天宮くんのお母さんの方がずっとずっとつらい思いをしているのに、気遣う事すらできない自分が歯がゆかった。

「亡くなる前日と前々日、もしかして陽大と一緒に外出した?」

唐突にそんなことを聞かれ、顔を上げる。

強張った表情をしていたのか、天宮くんのお母さんが柔らかい笑みを見せた。
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