僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
天宮くんの訃報を聞いてから、一度も泣きはしなかった。

まるで涙の流し方すら忘れてしまったかのように、ひたすら無気力だったのだ。

春休みで、学校に行かなくてもよかったのは幸いだった。

私は抜け殻のように、ただ呆然と日々を過ごした。

四月になり、日射しがあたたかくなっても、私は家から一歩も出なかった。

始業式も、次の日も休んだ。

ときどきスマホが振動していたけど、確認しようとも思わなかった。

ただただ抜け殻のように、窓の向こうの空の色が変わるのを眺めながら、一日を過ごすだけ。

様子のおかしい私に、お母さんは何も言ってこなかった。

毎食あたたかいご飯を作ってくれて、必要最低限の声をかけてくるだけ。

写真部のみんなで天宮くんの家に行ったとき、同級生が亡くなったことは言ってあるから、察してくれているのだろう。

何もせずに見守ってくれるお母さんの優しさは、今の私には何よりもありがたかった。
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