僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
「近藤くん。先生は職員室に行ってくるから、その間掃除をお願いね」

「……あ、はい」

埃っぽい部室を見て引いている近藤くんをその場に残し、用事を済ませにいったん職員室に戻る。

教師というのは本当に多忙だ。

授業計画はもちろん、会議、部活の運営、運動会などの担当イベントの計画、テスト制作、生徒間のトラブル対応まで、毎日やらないといけない仕事があふれている。

部室に戻ると、近藤くんは長机に向かって座っていた。

掃除をしている気配はなく、掃除用具どころか、真っ黒な布製のアルバムを手にしている。

「あっ、ええと……」

びくびくしている近藤くんは、掃除をサボったことを私が怒ると思ったのだろう。

「すみません、,ええと、道具が……」

状況をうまく説明できないようだ。

言葉足らずで、子供の頃からきっと怒られることの多かった子なのだろう。

HSPという特性も影響しているのかもしれない。

怒られすぎて、大人が怖くなった――そんなところだろう。

胸がぎゅっとするようなつらさを覚えながら、私は彼の隣に座った。

「何を見てたの? アルバム?」

「あ、はい。その写真集の箱に入ってて……」
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