僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
『カメラの中の夏生さんは、きれいだ』

記憶の奥底に埋もれていた彼の声が、あのシャッター音とともに、耳によみがえる。

震える指で、ページをめくった。

アルバムの中は、あの頃の私でいっぱいだった。

病室のソファーで何かを話している横顔、病室の窓から外を見ている姿。

きらめく海の見える防波堤を歩く姿、マリーゴールドの花畑でうつむいている姿。

部室の窓辺で空を見上げる姿、廊下で物憂げに掲示板を眺めている姿。

どの写真も、色のない世界で、私だけが唯一色づいていた。

まるで永遠に消えることのない虹のように、小さな四角の中で、これでもかというほど色鮮やかに輝いていた。

写真の一枚一枚が胸に強く焼きついて、全身が奮い立つ。

胸の鼓動が急加速して、彼との思い出が、あふれるようによみがえった。

自転車を漕ぐ白いシャツの背中、打ち上がる花火の下で向けられたまなざし。

舞い散る桜の中で笑った姿、震えながらすがるように抱きしめてきた腕の強さ。

三月の空に浮かんだ幻のような日暈を見上げた横顔――

一眼レフカメラを手にしたときの、彼の刺すようなまなざしをはっきり覚えている。

撮られている。

見られている。

存在を求められている。

背筋が震えるような緊張が、今も消えずに体に残っていた。
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