僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
数々の死に直面してきた医者としての淡白な表情と、ひとりの人間としての気遣いの表情。

その両方を合わせ持った複雑な目で、神妙に僕を見つめている。

後ろでうつむいている母さんの様子から、すぐに察した。

これはきっと、すごくヤバいことなんだって。

「霞病を患っている患者さんには稀に起こる症状なのですが、こうなると手の施しようがありません」

何度も調べた、霞病を解説しているウェブページの一文を思い出す。

――まれに合併症を引き起こし、脳が損傷して死亡するケースもある。

確率は、わずか一パーセント。

まさか自分の身に起こるわけがないと、ずっと思っていた。

だけどそのまさかが、現実に起こってしまったらしい。
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