僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
天宮くんの写真はきっと素晴らしいけど、モデルに見合っていない私のみじめさが際立ってしまう。

「それは大丈夫。誰かに見せたりはしないから安心して」

「ならよかった」

ホッと息を吐く。

結局写真をいつか消すのかどうかの話は中途半端になってしまったけど、人に見せないなら安心だ。

きっと、データがいっぱいになったら消してくれるだろう。

裏門を出て、アスファルトの地面が雨を跳ね返す路地を行く。

横断歩道を渡れば、すぐにバス停だ。

「ありがとう」

軒下に入ると、天宮くんの傘が離れていった。

いつの間にか、雨脚が弱くなってきている。

雨の湿った香りが、見慣れた景色に立ち込めていた。

「また写真、撮ってもいい?」

天宮くんが言う。やっぱり目は合わない。

想像もしていなかったことを聞かれて、私は返事に困った。
 
カメラマンの才能がある天宮くんの撮る相手が、私なんかでいいのだろうか?
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