僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
刺さるようなあのまなざしは、背筋が震えるような緊張を私にくれた。

撮られている。

見られている。

――そして、存在を求められている。

まるで存在しないかのように扱われた中学生活。

本当の意味では存在を尊重してもらえていない家での生活。

存在を消すように生きている高校生活。

自分なんて、そんなものだと思った。

この先もずっと、そうやって生きていくしかないのだと思っていた。

だけど天宮くんの目は違った。

そこにいる私の存在を、当たり前のように受け入れてくれていた。

「よかった」

天宮くんが、ホッとしたように言った。

「じゃあ、また部室に来て。待ってるから」

雨で湿った景色の中を、遠ざかっていく天宮くん。

途中で透明のビニール傘を閉じ、速足になったその姿を、ぼうっとしたまま見送る。

白いシャツの背中が路地の向こうに見えなくなったところで、いつの間にか雨がやんでいたことに気づいた。
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