僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
空に虹が架かっている。

あか、おれんじ、きいろ、みどり、あお、あいいろ、むらさき。

茜色に藍色を溶かしたような空に浮かぶ、七色の虹。

奇跡みたいな色とりどりの情景がまっすぐに目に飛び込んできて、もう何年も暗がりしか知らなかった心に、小さな花が音もなく開いていくような心地になった。

「きれい……」

そういえば小学生の頃、不思議な虹を見たことがある。

真っ白な太陽を取り囲む、大きな虹の輪。

濁りひとつない真っ青な空に、煌めく太陽の光。

七色ひとつひとつの輝きがあまりにも印象的で、今でもはっきりと脳裏に焼き付いている。

後から知ったことだけど、〝日暈(ひがさ)〟と呼ばれるらしいその現象は、めったに見れないもので、〝奇跡の虹〟とも呼ばれているらしい。

あのとき、スマホで夢中になって写真を撮った。

それほど印象深い光景だったのだ。

たぶん、生まれて初めて撮った写真だ。

何もかもが色鮮やかに輝いていた頃。

人の目を気にせず、私が私らしくいられた頃。

目の前に広がる情景が、心の奥底にしまわれたあの頃の記憶とリンクする。

雨上がりの匂いの中に、新緑の入り混じった五月の香りがした。
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