息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
報告書X/その5
「…あなた方は間違いなく、あの時あの場で、結果として一人の人間の命を救ったんです…」
この浦井の一言は、新田がこの先歩む刑事人生において、どれほど大きな心の糧となることだろうか…。
そう思うと、秋川の心は熱く踊った。
...
「浦井さん、律子さんはあの時、”どっちに行っても不思議じゃなかった”と自分たちに言ってくれました。そういうことだったんですね!」
新田は前のめりになって浦井に迫った。
「そうだと思いますよ。順を追って整理してみましょう。向井さんは律子さんとの紡がれていた運命を、自ら命を多投決心した後に確信しました。そして、”生を終えたその瞬間”には、”そのすべて”がわかるだろうということも…」
秋川の頭には、”その意識”に達っした祐二の自筆の字で埋まっていた、”あの手紙”が写真のように鮮明かつ生々しく甦っていた。
「…そのことがもっと前にはっきりしていれば、違う形で彼女を愛せたでしょう。しかし、”それ”に気づくのはその瞬間でしかない運命だったと…、もしかすると深層心理で自分に課していたのかも知れない。一方で、その無意識の意識は、深く念じた思いをこれまでも彼女に発し続けてきた。そしてある時、彼女も無意識の中で反応した”時間”があった…」
「それが、律子さんの幼少期、母方の親戚の家で過ごした間に起きた神社で起こった不思議な出来事だったのか…」
「ええ…。言うなれば、運命の記憶が成した交信現象ですね、相互共振による…。つまり…、あの二人にはとうの昔から”回路”が培かわれたいたんです、フォッサマグナの共振遍路を経て…。ただ、その交信方法の会得を自覚していなかった…。ですが、”あの時”は二人がいた場所その他諸要件が巧妙かつ偶発的にに重なり合い、当事者の意識を超えたところで現象が起こったのでしょう」
「その回路の交信が、ついに祐二さんの死後”全面開通”したって訳だ…」
「秋川さん、その開通した回路は言わばハードパーツに当たります。そしてソフトパーツが…」
ここで浦井の後段の言葉を遮るように秋川が新田に振り向けた。
「新田、そのソフト、お前は何だと思う?」
「あのバイクかと…」
この時の新田は何故か俯いていた。
...
「そうですよ、新田さん。あのオートバイが現実世界で二人を紡いだことになりますが、ソフトアプリという側面も宿したんです。そのバイクは二人の共振作用の媒体として、あの白煙を吐いた…」
ここでの浦井の言いようは端的で明快だった。
「…律子さんは尾隠しに着いた時点では、もう祐二さんが生きていようが死んでいようが、紡がれていた運命の人との共振作用という点では、確信をえていたでしょう。ここまで達すれば、彼が彼女を想い、彼女が彼を想うという相互交信の向かう針路によっては、二人が憎むべく人間を殺すこともあり得ると意識していたはずです」
”うん…、彼女は岐阜で克也さんと会った後、この地に入ったことで紡がれた運命の受け入れたんだ…‼”
千葉で失踪した律子の追跡は、結果的に秋川が彼女の自己探求路を追体験したことになる。
それだけに、秋川自身、彼女が辿った心の変化は妙に伝わるものがあったのだろう。
「…その意識の中に刑事さん二人が必死で訴えた結果、彼女は祐二さんのエネルギーが憎むべき対象に及ぶことを拒んだんです。おそらくその選択は、彼女にとって紙一重のところだったと思いますよ」
あの場で懸命に事態と向き合っていた二人の刑事は、感慨深そうに頷いていた。
「…あなた方は間違いなく、あの時あの場で、結果として一人の人間の命を救ったんです…」
この浦井の一言は、新田がこの先歩む刑事人生において、どれほど大きな心の糧となることだろうか…。
そう思うと、秋川の心は熱く踊った。
...
「浦井さん、律子さんはあの時、”どっちに行っても不思議じゃなかった”と自分たちに言ってくれました。そういうことだったんですね!」
新田は前のめりになって浦井に迫った。
「そうだと思いますよ。順を追って整理してみましょう。向井さんは律子さんとの紡がれていた運命を、自ら命を多投決心した後に確信しました。そして、”生を終えたその瞬間”には、”そのすべて”がわかるだろうということも…」
秋川の頭には、”その意識”に達っした祐二の自筆の字で埋まっていた、”あの手紙”が写真のように鮮明かつ生々しく甦っていた。
「…そのことがもっと前にはっきりしていれば、違う形で彼女を愛せたでしょう。しかし、”それ”に気づくのはその瞬間でしかない運命だったと…、もしかすると深層心理で自分に課していたのかも知れない。一方で、その無意識の意識は、深く念じた思いをこれまでも彼女に発し続けてきた。そしてある時、彼女も無意識の中で反応した”時間”があった…」
「それが、律子さんの幼少期、母方の親戚の家で過ごした間に起きた神社で起こった不思議な出来事だったのか…」
「ええ…。言うなれば、運命の記憶が成した交信現象ですね、相互共振による…。つまり…、あの二人にはとうの昔から”回路”が培かわれたいたんです、フォッサマグナの共振遍路を経て…。ただ、その交信方法の会得を自覚していなかった…。ですが、”あの時”は二人がいた場所その他諸要件が巧妙かつ偶発的にに重なり合い、当事者の意識を超えたところで現象が起こったのでしょう」
「その回路の交信が、ついに祐二さんの死後”全面開通”したって訳だ…」
「秋川さん、その開通した回路は言わばハードパーツに当たります。そしてソフトパーツが…」
ここで浦井の後段の言葉を遮るように秋川が新田に振り向けた。
「新田、そのソフト、お前は何だと思う?」
「あのバイクかと…」
この時の新田は何故か俯いていた。
...
「そうですよ、新田さん。あのオートバイが現実世界で二人を紡いだことになりますが、ソフトアプリという側面も宿したんです。そのバイクは二人の共振作用の媒体として、あの白煙を吐いた…」
ここでの浦井の言いようは端的で明快だった。
「…律子さんは尾隠しに着いた時点では、もう祐二さんが生きていようが死んでいようが、紡がれていた運命の人との共振作用という点では、確信をえていたでしょう。ここまで達すれば、彼が彼女を想い、彼女が彼を想うという相互交信の向かう針路によっては、二人が憎むべく人間を殺すこともあり得ると意識していたはずです」
”うん…、彼女は岐阜で克也さんと会った後、この地に入ったことで紡がれた運命の受け入れたんだ…‼”
千葉で失踪した律子の追跡は、結果的に秋川が彼女の自己探求路を追体験したことになる。
それだけに、秋川自身、彼女が辿った心の変化は妙に伝わるものがあったのだろう。
「…その意識の中に刑事さん二人が必死で訴えた結果、彼女は祐二さんのエネルギーが憎むべき対象に及ぶことを拒んだんです。おそらくその選択は、彼女にとって紙一重のところだったと思いますよ」
あの場で懸命に事態と向き合っていた二人の刑事は、感慨深そうに頷いていた。