息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
核心/その2


だが秋川は、更にここでダメ押しをすることにした。
それは、”別部屋”経験者の現役刑事としての、逃れられない性からだったのかもしれない…。

「では念押しさせてもらいますよ、浦井さん…。”あの場”は我々の対処で石毛老人を救ったとして、それで終わらせられたのかどうか…。やはり、現役の刑事としてこういった経由に至ったからには、もう犠牲者を出す事態を防ぎ切ったのかどうか…、これがすべてといっても過言ではないんです」

「私個人の答えを問われれば、先ほどと同様です。終わったと思います。つまり、もう犠牲者は出ないと…。そう信じたい。ただし、律子さんと祐二さんの共振現象は終わっていません。というか、永遠に終わることなどないと、私には確信できるんです。彼女がこの世から去った後も…。つまり、二人次第です…。まさか四六時中、秋川さんか新田さんが彼女の五感に付きっきりは不可能でしょうしね…」

「ええ、それやったらストーカーでこっちが訴えられる。若しくは、祐二さんに恨まれる。それは避けたいですな…。所詮私はこの世の現実と格闘する一介の刑事ですから(苦笑)」

「その通りです。…あなた方はもう十分、尽くされた。これでいいんじゃないですか。ここまでで…」

秋川も新田も、ようやく自分自身への決着とすることに踏ん切れたのだ…。

「新田、そう言うことだそうだ…」

「秋川さん…。俺…」

”ふう…、これで一応決着としていいだろう”

秋川は自分にそう言い聞かせてから、隣に座っていた新田の膝を軽くポンとたたいた。

「秋川さん、いいんですよね?」

「ああ…」

秋川は、この時の新田が警察官としての公務員根性を克服したことを実感した。

それが、彼には逆立ちしたいほど嬉しかったのだ。

”今の新田とのアイコンタクトは絶対に忘れてはいけない…。絶対に…”

...

「…仮にこの後、二人の共鳴や共振作用で何らかが起きて事件となっても、それはそれで捉えればいい。私はそう思います。新田さん、その時はまた真正面から目の前の現実と現象に向きあえばいいんです…。ねえ、秋川刑事…」

「はい。じゃあ、新田、そう言うことにしようや」

「わかりました…」

新田はそう言ったあと大きく深呼吸をすると、目に見えてリラックスした表情となった。
すると、ごく自然と浦井に確認したいことが口からこぼれた

「でも、浦井さん…。”それ”ができたのは、何だったんでしょうか?僕と秋川さんは、ただ律子さんの名を呼びかけ、言葉をかけていただけです。それだけで…、我々は手を下す立場と下される立場のこの世に人間二人、それにあの世の人間一人を救ったことになるんですか?」

「新田刑事…、あなたは律子さんに声をかけただけでしたか?」

「ええと…、秋川さん…他には何かありましたか?」

「ああ、彼女の体に触れていたな。お前は上半身を支え、もう片方の手で律子さんの肩あたりをさすっていた。俺は…、右手で腰をさすり、左手で彼女の右手をぎゅと握っていたかな…」

正面の秋川がこう語った後、それを受けた浦井はニッコリとした顔で補足説明をはじめた。




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