息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
核心/その3
「秋川刑事は今回、我々と同様の活動を行っているアメリカ機関のデータを閲覧して、北米カナダ国境付近の険しい山脈地帯を注目された。いい目の付け所ですよ。この辺りの山麓間では、日本のフォッサマグナ北部地帯と酷似している事象が過去に幾例も記録されているんです」
「さすがですね、秋川さんのカンは…」
「いや、律子さんのいとこにあたる克也さんのおかげだよ。尾隠しにたどり着く前に彼からの話を聞いていなかったら、”この視点”は持ち合わせなかっただろうさ」
この秋川の言葉には、何とも言えない実感が伴っていた。
新田と浦井はともに大きく頷き合い、しばし沈黙したあと、浦井が再び話を続けた。
「…人と土地、いや、ここでは大地と申しましょう。その、それぞれの遺伝子が反応し合って、そしてとてつもない長い時間をかけ、その地に蓄積される…。我々はそのエネルギーが様々な要因を満たした人間とさらに反応し、それによって不思議な出来事が多々発生し得ると見ています。代表的なところは”蒸発”と”憑依”の両現象です。日本流に言い表せば、神隠しと狐つきってところですね」
この時点で秋川には、浦井の言わんとするところがぼんやりとは見えていた。
一方の新田は話の方向性が今一つ読めていなかったが、浦井の話には興味深そうに耳を傾けていた。
...
「…律子さんは、言ってみれば向井邸で後者を体現したんです。この場合、狐に相当するのは故向井祐二さんですね。あの時、その彼との共鳴によって発するエネルギーは、まさしく憎むべき人間に向いていた訳ですよね。これを阻止しようとする際、それは五感に刺激を与えることがベースになる。それを秋川さんは、あらかじめ我々の提携機関である米サイトでリサーチされていたんですよね?」
「ええ、そんなとこです(苦笑)。まあ、素人の付け焼刃みたいなもんで、要は本人に訴えかける…。そう受け取りました…」
「まことにシンプルながら、皮膚感覚で温もりを触感でまず刺激し、並行して必死に言葉をかけ続ける…。本人のすぐそばに寄り添っていいれば、聞こえる声も大きいし、体の臭いも感じ取れます。朦朧としながらも視界には自分に向いている視線と、真剣に言葉を送ってくれている顔が映る」
「…」
「そして、体をさすり催眠状態に陥ることを拒ませることで、口の中は微妙に分泌液が湧いてきます。広義での味覚が脳に伝達されるわけですね。…ですからあの時、刑事としてのお二人は超常現象にリンクした場において、極めて適切な危機対応をされたと言えるんです」
「あなたのような立場の方にそうおっしゃっていただくと、大変うれしいですよ。なあ、新田」
「はい」
新田は本当にうれしそうな顔つきだった。
それを横で眺める秋川も何しろ嬉しかったのだ…。
「秋川刑事は今回、我々と同様の活動を行っているアメリカ機関のデータを閲覧して、北米カナダ国境付近の険しい山脈地帯を注目された。いい目の付け所ですよ。この辺りの山麓間では、日本のフォッサマグナ北部地帯と酷似している事象が過去に幾例も記録されているんです」
「さすがですね、秋川さんのカンは…」
「いや、律子さんのいとこにあたる克也さんのおかげだよ。尾隠しにたどり着く前に彼からの話を聞いていなかったら、”この視点”は持ち合わせなかっただろうさ」
この秋川の言葉には、何とも言えない実感が伴っていた。
新田と浦井はともに大きく頷き合い、しばし沈黙したあと、浦井が再び話を続けた。
「…人と土地、いや、ここでは大地と申しましょう。その、それぞれの遺伝子が反応し合って、そしてとてつもない長い時間をかけ、その地に蓄積される…。我々はそのエネルギーが様々な要因を満たした人間とさらに反応し、それによって不思議な出来事が多々発生し得ると見ています。代表的なところは”蒸発”と”憑依”の両現象です。日本流に言い表せば、神隠しと狐つきってところですね」
この時点で秋川には、浦井の言わんとするところがぼんやりとは見えていた。
一方の新田は話の方向性が今一つ読めていなかったが、浦井の話には興味深そうに耳を傾けていた。
...
「…律子さんは、言ってみれば向井邸で後者を体現したんです。この場合、狐に相当するのは故向井祐二さんですね。あの時、その彼との共鳴によって発するエネルギーは、まさしく憎むべき人間に向いていた訳ですよね。これを阻止しようとする際、それは五感に刺激を与えることがベースになる。それを秋川さんは、あらかじめ我々の提携機関である米サイトでリサーチされていたんですよね?」
「ええ、そんなとこです(苦笑)。まあ、素人の付け焼刃みたいなもんで、要は本人に訴えかける…。そう受け取りました…」
「まことにシンプルながら、皮膚感覚で温もりを触感でまず刺激し、並行して必死に言葉をかけ続ける…。本人のすぐそばに寄り添っていいれば、聞こえる声も大きいし、体の臭いも感じ取れます。朦朧としながらも視界には自分に向いている視線と、真剣に言葉を送ってくれている顔が映る」
「…」
「そして、体をさすり催眠状態に陥ることを拒ませることで、口の中は微妙に分泌液が湧いてきます。広義での味覚が脳に伝達されるわけですね。…ですからあの時、刑事としてのお二人は超常現象にリンクした場において、極めて適切な危機対応をされたと言えるんです」
「あなたのような立場の方にそうおっしゃっていただくと、大変うれしいですよ。なあ、新田」
「はい」
新田は本当にうれしそうな顔つきだった。
それを横で眺める秋川も何しろ嬉しかったのだ…。