息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
核心/その4
”確かに警察の本分であるセオリーに基づいた捜査から逸脱したことは否めない。しかし、まさに捜査現場において自分の目の前で起きたことは否定せず、そこから本当に大事なことは何なのかを見極め、苦しみながらもそれに全力を注げたんだ。若い新田には貴重な経験になるさ”
秋川は今、自らの心に向けて、改めて今回の行いに対する自己確認に入っていた。
”やるだけやった結果の総括が済み、更に事の核心をできる範囲で希求できたんだ…”
浦井との面談は終焉を迎えようとしていた。
「…今回の事件が”通常”のレールに乗っていたら、おそらく警察捜査は未解決。尾隠しの際立った因習と、ネットでも周知されているあの地帯での怪現象と連動して、いわゆる怪村に祭り上げられてしまったでしょう。律子さんと祐二さんの共振作用は、下手したら大量の人間が死ぬという事態を招いていたかもしれない」
「…」
「…そうなったら、律子さんはサイコで一括りされ、つるし上げられる可能性だってあった訳ですよ。当然、土地に宿された人間の営みと大地とのコアな関わり合いの側面は、全く見向きもされずに終わりです。あとは、謎多き未解決事件として、断片的に拾われ、興味本位の尾ひれ背びれがついて語り継がれるだけです。その結果、当事者たちは長く世俗に汚されていくんですよ。それだけは”こちら”に持ち込まれたことで、なんとか避けられた…。この自負はあります」
最後に浦井がぽつりぽつりと漏らすように言った言葉は、まさに別部屋に回らなかった場合に予測された明らかな結末であり、この見解がいわば浦井の立場では”結論”であったに違いない…。
二人の刑事はそれを、感慨深く受け止めながら、神妙な面持ちで聞き入っていた。
...
「浦井さん、今日はご丁寧にお話しいただき、ありがとうございました」
「いえー、私共としても、このような希少事案を持ち込んでいただき、大変感謝しているんですよ。しかも、律子さんの聞き及んだ医師や役所の職員らの証言、それと克也さんの論説…。どれも貴重なものでした。おかげでかなりクォリティーの高い成果を出せました。すでに海外でも関心を払っていますよ、本件については。今後、国外を含めてこの検証事案は多くの人の参考になるでしょう…」
秋川と新田は、”ちょっと大げさじゃないか…”と言った表情で苦笑いを漏らしていた。
しかし、自分たちの行為がそこまで寄与できるということに対しては純粋にうれしい気分ではあったが。
「…何と言っても、呪いや霊魂をすんなり受け入れる国民性が浸透していますからね、日本人に対しては。その国の超常現象を伴う刑事事件を、こういった側面から精度の高い検証結果で残せることになったんです。これは快挙と言っていい。それを導いたのは、現役の刑事であるお二人の行動です。秋川さん、新田さん、ありがとうございます…」
「こちらこそ、お世話になりました」
「…新田さん、我々のところへ”持ち込み”したことが原因で警察官を辞められる方は少なくない。私たちはそれが何とも辛いんです。あなたには是非、これからも第一線の刑事として長く活躍されることを願っています。できるなら秋川さんのように、今回の経験を”消化”していただきたい。頑張ってください」
「浦井さん…」
研究所の入り口での別れ際、新田は感極まっていた…。
”確かに警察の本分であるセオリーに基づいた捜査から逸脱したことは否めない。しかし、まさに捜査現場において自分の目の前で起きたことは否定せず、そこから本当に大事なことは何なのかを見極め、苦しみながらもそれに全力を注げたんだ。若い新田には貴重な経験になるさ”
秋川は今、自らの心に向けて、改めて今回の行いに対する自己確認に入っていた。
”やるだけやった結果の総括が済み、更に事の核心をできる範囲で希求できたんだ…”
浦井との面談は終焉を迎えようとしていた。
「…今回の事件が”通常”のレールに乗っていたら、おそらく警察捜査は未解決。尾隠しの際立った因習と、ネットでも周知されているあの地帯での怪現象と連動して、いわゆる怪村に祭り上げられてしまったでしょう。律子さんと祐二さんの共振作用は、下手したら大量の人間が死ぬという事態を招いていたかもしれない」
「…」
「…そうなったら、律子さんはサイコで一括りされ、つるし上げられる可能性だってあった訳ですよ。当然、土地に宿された人間の営みと大地とのコアな関わり合いの側面は、全く見向きもされずに終わりです。あとは、謎多き未解決事件として、断片的に拾われ、興味本位の尾ひれ背びれがついて語り継がれるだけです。その結果、当事者たちは長く世俗に汚されていくんですよ。それだけは”こちら”に持ち込まれたことで、なんとか避けられた…。この自負はあります」
最後に浦井がぽつりぽつりと漏らすように言った言葉は、まさに別部屋に回らなかった場合に予測された明らかな結末であり、この見解がいわば浦井の立場では”結論”であったに違いない…。
二人の刑事はそれを、感慨深く受け止めながら、神妙な面持ちで聞き入っていた。
...
「浦井さん、今日はご丁寧にお話しいただき、ありがとうございました」
「いえー、私共としても、このような希少事案を持ち込んでいただき、大変感謝しているんですよ。しかも、律子さんの聞き及んだ医師や役所の職員らの証言、それと克也さんの論説…。どれも貴重なものでした。おかげでかなりクォリティーの高い成果を出せました。すでに海外でも関心を払っていますよ、本件については。今後、国外を含めてこの検証事案は多くの人の参考になるでしょう…」
秋川と新田は、”ちょっと大げさじゃないか…”と言った表情で苦笑いを漏らしていた。
しかし、自分たちの行為がそこまで寄与できるということに対しては純粋にうれしい気分ではあったが。
「…何と言っても、呪いや霊魂をすんなり受け入れる国民性が浸透していますからね、日本人に対しては。その国の超常現象を伴う刑事事件を、こういった側面から精度の高い検証結果で残せることになったんです。これは快挙と言っていい。それを導いたのは、現役の刑事であるお二人の行動です。秋川さん、新田さん、ありがとうございます…」
「こちらこそ、お世話になりました」
「…新田さん、我々のところへ”持ち込み”したことが原因で警察官を辞められる方は少なくない。私たちはそれが何とも辛いんです。あなたには是非、これからも第一線の刑事として長く活躍されることを願っています。できるなら秋川さんのように、今回の経験を”消化”していただきたい。頑張ってください」
「浦井さん…」
研究所の入り口での別れ際、新田は感極まっていた…。