息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
再会/その2


石段を登りきると、大木が生い茂る森を背にした神社の境内が正面にドンと佇んでいた。
それは無数の仁王様が、下々を見下ろしてるかのように。

”すべては然もあらんなり…”

そう息吹きしてるかの如きだと…、秋川は皮膚感覚で推していた。

「あそこですね…。”鬼”だった律子さんが目をつぶって数を数えていた場所は…」

新田は右手の人差し指を賽銭箱に向けてそう言った。
かすかに寒風の吹く中、彼の口から洩れる白い息が、神聖な場所の厳粛さをひと際浮き立たせている。

「…実際にここでは、昔から幼い子供が何人も行方不明になっているってことだ。さっき、浦井さんの話に出てきた神隠しってヤツだろうか…」

「この地に土着したエネルギーと、生まれる以前から背負ったさだめを深層心理として抱えた上でこの世に生を受けた人間の波動が共鳴する…。そこで発生したエネルギーが相互作用、誘発し合う現象ですか…」

JAAOでの解説を得た新田の頭の中は、もはや整然とさせていた。
それは例え、丸々信じることなどできない超常現象に関わる諸々のことも…。

...


「ああ…。特にこの地域に暮らす住人は、ここを大昔から激しい大地の怒りが凝縮している日の本の国”創造地”であり、中心と捉えていたとな…。火山活動なんかは、神の意志によるものだと信じていたんだろう。その結果、この国を発祥させた聖地に鎮魂を願って、けがれなき幼い身を地の神に献上する因習が根付いた訳か…」

「じゃあ、やっぱり…、飛騨山地の地中深くをぶち抜いた回路であの二人は共振を交わし、律子さんが生贄として身を捧げる運命を祐二さんが救ったといことになるんでしょうか…。あくまで無意識の意識というレベルで…」

「所詮は推測、仮説だ。科学的に根拠を得るなんて不可能なんだし…。我々にとっては、程々のところに留めておかないとな…」

別部屋に回った事件と一緒に向き合ってきた秋川は、新田が以後、非科学的現象との距離感をどう保っていくか…。
JAAOの検証結果が現役刑事の立場でインプットされた今、この点が一番気にかかるところだった。

”そのスタンスを見誤れば、今後、適切な現場捜査の判断に支障をきたし兼ねない…”

刑事を続けていく生身の人間にとって、そのセルフコントロールがどれだけ難しいことかを、秋川は身を以って知り尽くしていたのだ。

「ええ、わかりました。でも、ここは目に焼き付けておかないと…。今回携わった別部屋の一件を自分の中で消化させるためにも…」

秋川は、境内を直視しながらそう決意を口にする新田に目を細めた。
その目には、この若い刑事に対するいたたまれない思いも滲んでいるようだった。



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