息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
帰点と起点/その1
あれからおよそ半年が過ぎ去った…。
2014年9月27日…。
まだまだ本格的な秋風の到来Nには程遠く、しぶとく残暑が居座る関東南端の千葉県南部…。
秋川は久しぶりの非番を自宅のアパートで過ごしていた。
この四月の異動で千葉県警M署に配属となった秋川は、その間重大事件には遭遇せず、精神的にも前任の東署よりは安定していた。
”例の事件”はそのまま新田が引き継いだが、その後の進展はなく、”未解決事件”の1ページに加わる運命をひた走っていた。
無論、新田からは時折、現状報告は入ってはいた。
しかし、その都度、判で押したような”特段の進捗はなし”というものだったのだ。
もっとも、新田本人はすでに心の中では”別の解決”に至っていた訳で、さほど気に病んでいる様子はなく、このことが秋川にとっては何よりホッとしていた。
そして、律子とその周辺にもあの後は何も異変は起きていない。
秋川と新田の別部屋事案はフェイドアウトの軌道に乗っていた。
この時点では、確かに…。
...
「よっしゃー!いよいよクライマックスだな…」
自室のフローリングの床に向かって、秋川はご機嫌そうな笑みを浮かべていた。
彼の目線にあるのは、畳半畳サイズのジグゾーパズルだった。
ハードな現場捜査での心労を癒す、ベテラン刑事秋川のマイブームは、このビッグサイズのジグゾーパズル攻略だったのだ。
最近彼がはまってるのは、”外国人の描いたニッポンシリーズ”だ。
そのものズバリ、外国人が日本の景色や自然、日常風景を描いた絵のパズルである。
バツ2の独身男秋川が現在、格闘中のパズルは、”ジンリキシャ・イン・カミナリモン”というもので、文字通り東京浅草の雷門前をバックに、若い女性二人の観光客を引っ張る人力車が描かれたものなのだが…。
日本古来から慣れ親しまれた伝統的な輸送車両ではあるが、乗っている女性は二人ともスマホの画面をいじっているという、”絵柄”になっている。
”このシリーズの風刺画的なアクセントがいいんだよな…。パズルが完成した時、その絵のアクセントポイントがなぜか浮き出る…。その瞬間がたまらん…”
秋川は、このシリーズのパズル踏破を、実際の捜査で事件を解決し、その本質をその目で捉えた時を凝視させていたのだろう。
”さあ、あと数十分で全容を目にすることになるぞ…”
そう心の中でつぶやいて、ややニヤケ顔の秋川はリビングの床に胡坐をかき、残り少なくなったピースを右手の人指し指と親指、中指ですりすりしながらボード上に埋め込む作業に勤しんでいた。
そして午前10時20分過ぎ…。
秋川の心安らぐひと時は、彼のケータイからの着信音によって急転直下、中断を余儀なくされた。
あれからおよそ半年が過ぎ去った…。
2014年9月27日…。
まだまだ本格的な秋風の到来Nには程遠く、しぶとく残暑が居座る関東南端の千葉県南部…。
秋川は久しぶりの非番を自宅のアパートで過ごしていた。
この四月の異動で千葉県警M署に配属となった秋川は、その間重大事件には遭遇せず、精神的にも前任の東署よりは安定していた。
”例の事件”はそのまま新田が引き継いだが、その後の進展はなく、”未解決事件”の1ページに加わる運命をひた走っていた。
無論、新田からは時折、現状報告は入ってはいた。
しかし、その都度、判で押したような”特段の進捗はなし”というものだったのだ。
もっとも、新田本人はすでに心の中では”別の解決”に至っていた訳で、さほど気に病んでいる様子はなく、このことが秋川にとっては何よりホッとしていた。
そして、律子とその周辺にもあの後は何も異変は起きていない。
秋川と新田の別部屋事案はフェイドアウトの軌道に乗っていた。
この時点では、確かに…。
...
「よっしゃー!いよいよクライマックスだな…」
自室のフローリングの床に向かって、秋川はご機嫌そうな笑みを浮かべていた。
彼の目線にあるのは、畳半畳サイズのジグゾーパズルだった。
ハードな現場捜査での心労を癒す、ベテラン刑事秋川のマイブームは、このビッグサイズのジグゾーパズル攻略だったのだ。
最近彼がはまってるのは、”外国人の描いたニッポンシリーズ”だ。
そのものズバリ、外国人が日本の景色や自然、日常風景を描いた絵のパズルである。
バツ2の独身男秋川が現在、格闘中のパズルは、”ジンリキシャ・イン・カミナリモン”というもので、文字通り東京浅草の雷門前をバックに、若い女性二人の観光客を引っ張る人力車が描かれたものなのだが…。
日本古来から慣れ親しまれた伝統的な輸送車両ではあるが、乗っている女性は二人ともスマホの画面をいじっているという、”絵柄”になっている。
”このシリーズの風刺画的なアクセントがいいんだよな…。パズルが完成した時、その絵のアクセントポイントがなぜか浮き出る…。その瞬間がたまらん…”
秋川は、このシリーズのパズル踏破を、実際の捜査で事件を解決し、その本質をその目で捉えた時を凝視させていたのだろう。
”さあ、あと数十分で全容を目にすることになるぞ…”
そう心の中でつぶやいて、ややニヤケ顔の秋川はリビングの床に胡坐をかき、残り少なくなったピースを右手の人指し指と親指、中指ですりすりしながらボード上に埋め込む作業に勤しんでいた。
そして午前10時20分過ぎ…。
秋川の心安らぐひと時は、彼のケータイからの着信音によって急転直下、中断を余儀なくされた。