息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
その3
その日は連休近くということもあり、窓口には年配者を中心に、いつもより多くの人が訪れていた。
律子はといえば、土日に休暇を加えた休み明けのため、何かとチェック業務がたまっており、午前中はパソコン席でそれに集中していた。
律子の席の前では、窓口で後輩の職員がハキハキと顧客応対にあたっている。
そして…、それは正午直前の午前11時40分過ぎのことだった。
窓口で現金をまさに受け取ろうとしていた年配女性が、パソコンのディスプレイに向かう律子をじーっと凝視していた。
ディスプレイに目をやる律子の視界の片袖に、その針で刺すような視線を感じて頭を起こすと、突然、女性客は狂ったような大声を上げた。
すると、何事かを叫びながら、手にしていた現金を封筒ごと、律子の顔めがけて投げつけたのだ。
あまりの突然の出来事に、窓口の女性職員は呆然と座ったまま、その年配女性客を口をあけて見やっていた…。
...
年配女性の奇声は行内に轟いた。
ロビーやキャッシュコーナーにいた数人の客も、何事かと手を止め、窓口付近に目が釘付けだ。
年配の女性客はすでにフロアに横転して、七転八倒しながら叫び続け、錯乱状態だった。
まもなく、店舗奥の席にいた支店長の片桐も気づき、女性客のもとに駆け付けけた。
「小峰さん、大丈夫ですか?しっかり!」
どうやらその女性客は、支店長にも名前を覚えられているランクの個人客のようだ。
小峰さんのコンパクトな背中をさすりながら言葉をかける支店長の後ろには、応接で接客を終えた副長の江田が驚いた表情で、
「どうしたんです…、あっ、小峰さん…。何かの発作ですか?」と、書類片手に中腰で支店長に問いかけた。
「わからん。でも救急車だな、これは…」
「ええ‥。おい、頼む!」
江田は店舗カウンター越しに、こわごわと様子見をしている女子職員数人に目で合図をした。
...
その直後…、シューッという、か細い空気が漏れるような音がした。
続いて、鼻がよじれるような悪臭が漂い始める。
「臭い‼なんなの、これ…⁉」
律子の同期である和美は、律子の席に視線を向け、更に声を上げた。
「律子、なんなのよ、そのヘンなのモノは‼」
その変なモノは、床からゆっくりとウネリながら舞い上がって行った。
律子の足元から這い出てくる、その白い細長くふわふわした悪臭の主は、まるでキツネの尾のようだった。
そして、その生臭い悪臭は、まさに死人の吐息を連想させるものだった…。
その日は連休近くということもあり、窓口には年配者を中心に、いつもより多くの人が訪れていた。
律子はといえば、土日に休暇を加えた休み明けのため、何かとチェック業務がたまっており、午前中はパソコン席でそれに集中していた。
律子の席の前では、窓口で後輩の職員がハキハキと顧客応対にあたっている。
そして…、それは正午直前の午前11時40分過ぎのことだった。
窓口で現金をまさに受け取ろうとしていた年配女性が、パソコンのディスプレイに向かう律子をじーっと凝視していた。
ディスプレイに目をやる律子の視界の片袖に、その針で刺すような視線を感じて頭を起こすと、突然、女性客は狂ったような大声を上げた。
すると、何事かを叫びながら、手にしていた現金を封筒ごと、律子の顔めがけて投げつけたのだ。
あまりの突然の出来事に、窓口の女性職員は呆然と座ったまま、その年配女性客を口をあけて見やっていた…。
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年配女性の奇声は行内に轟いた。
ロビーやキャッシュコーナーにいた数人の客も、何事かと手を止め、窓口付近に目が釘付けだ。
年配の女性客はすでにフロアに横転して、七転八倒しながら叫び続け、錯乱状態だった。
まもなく、店舗奥の席にいた支店長の片桐も気づき、女性客のもとに駆け付けけた。
「小峰さん、大丈夫ですか?しっかり!」
どうやらその女性客は、支店長にも名前を覚えられているランクの個人客のようだ。
小峰さんのコンパクトな背中をさすりながら言葉をかける支店長の後ろには、応接で接客を終えた副長の江田が驚いた表情で、
「どうしたんです…、あっ、小峰さん…。何かの発作ですか?」と、書類片手に中腰で支店長に問いかけた。
「わからん。でも救急車だな、これは…」
「ええ‥。おい、頼む!」
江田は店舗カウンター越しに、こわごわと様子見をしている女子職員数人に目で合図をした。
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その直後…、シューッという、か細い空気が漏れるような音がした。
続いて、鼻がよじれるような悪臭が漂い始める。
「臭い‼なんなの、これ…⁉」
律子の同期である和美は、律子の席に視線を向け、更に声を上げた。
「律子、なんなのよ、そのヘンなのモノは‼」
その変なモノは、床からゆっくりとウネリながら舞い上がって行った。
律子の足元から這い出てくる、その白い細長くふわふわした悪臭の主は、まるでキツネの尾のようだった。
そして、その生臭い悪臭は、まさに死人の吐息を連想させるものだった…。