息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
形跡/その1
その日の午後、律子の母親、晴子は持参した合鍵で部屋を開けた。
一応、インターフォンを何度か鳴らしたが応答はなく、実際、部屋の中に律子はいなかった。
晴子のあとに続いて秋川と新田、それに信金の江田が室内に入った。
秋川はまず、部屋全体を見回してみた。
携帯は電源を切った状態でテーブルに置いてあり、机の上のパソコンは閉じてあった。
新田が、机の上の読みかけらしき本に挟んである小さい紙を見つけると、それを手に取った。
しおりかと思ったが、その紙切れにはボールペンで走り書きがされたあった。
”不破町の神社”
メモにはそれだけが書き残されていた。
...
新田からそのメモを手渡された秋川は、晴子に尋ねた。
「これ、何かお心当たりありますか?」
「ええ…、律子が小さい頃、私側の親戚にしばらく預けていたんですが、その家の近所にある神社です。よく、近所の子と遊んでいましたわ」
晴子すぐにそう答えた。
秋川は、「そうですか」と頷いてから、江田と晴子に向かって話し出した。
「律子さんはおそらく、自分の意志で昨夜出かけたと思われますが、勤務先に連絡せず、携帯も持たずにというのが、まずは気にかかります」
晴子と江田は、神妙な顔つきで秋川の顔をじっと見つめて話を聞いていた。
「…誰かに会いに行ったのか、その辺は分かりかねますが、本人にとってはよほどのことが生じたのかも知れません。ここは早急に、律子さんの居所を探した方がいいと思います」
「捜査願を出すということでしょうか?」
秋川は、心配でたまらないといった表情を隠せない晴子に穏やかな口調で答えた。
「いえ。今の段階では、まず私どもで動いてみます。その状況によって、ということで…」
そう言って、秋川は手にしているメモに再び目をやった。
その日の午後、律子の母親、晴子は持参した合鍵で部屋を開けた。
一応、インターフォンを何度か鳴らしたが応答はなく、実際、部屋の中に律子はいなかった。
晴子のあとに続いて秋川と新田、それに信金の江田が室内に入った。
秋川はまず、部屋全体を見回してみた。
携帯は電源を切った状態でテーブルに置いてあり、机の上のパソコンは閉じてあった。
新田が、机の上の読みかけらしき本に挟んである小さい紙を見つけると、それを手に取った。
しおりかと思ったが、その紙切れにはボールペンで走り書きがされたあった。
”不破町の神社”
メモにはそれだけが書き残されていた。
...
新田からそのメモを手渡された秋川は、晴子に尋ねた。
「これ、何かお心当たりありますか?」
「ええ…、律子が小さい頃、私側の親戚にしばらく預けていたんですが、その家の近所にある神社です。よく、近所の子と遊んでいましたわ」
晴子すぐにそう答えた。
秋川は、「そうですか」と頷いてから、江田と晴子に向かって話し出した。
「律子さんはおそらく、自分の意志で昨夜出かけたと思われますが、勤務先に連絡せず、携帯も持たずにというのが、まずは気にかかります」
晴子と江田は、神妙な顔つきで秋川の顔をじっと見つめて話を聞いていた。
「…誰かに会いに行ったのか、その辺は分かりかねますが、本人にとってはよほどのことが生じたのかも知れません。ここは早急に、律子さんの居所を探した方がいいと思います」
「捜査願を出すということでしょうか?」
秋川は、心配でたまらないといった表情を隠せない晴子に穏やかな口調で答えた。
「いえ。今の段階では、まず私どもで動いてみます。その状況によって、ということで…」
そう言って、秋川は手にしているメモに再び目をやった。