息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
追跡/その1


律子の部屋を検証した翌日、秋川は昼過ぎには高速を降り、岐阜県内の県道を走っていた。

”まずは、津子が向かったと思われる、あの神社に行ってみねば…”

秋川はハンドルを握る手に力を入れながら、徐々に近づきつつある最初の目的地を想像していた。

...


朝方、新田から連絡が入り、すでに秋川は最新の”情報”を得ていた。
バイクの出品者が長野県内居住の向井裕二という男性で、引き渡し現場の山中には、律子の高校時代の友人、高見美香が立ち会っていたということ。

律子の携帯には、向井祐二をはじめ、今回の件で関連のありそうな着信履歴は、特にはなさそうだということ。
そして…、滝沢太一の部屋からは、律子の指紋が一切、発見されていなかったこと。
さらに、律子の母親が岐阜の親戚の家に連絡を取ったところ、昨日の午前中、律子が突然、訪ねたことが分かった。

秋川は、これから俺が行くところはすでに律子が辿っているということを、ほぼ確信していた。

よって、そのこと自体のもたらす真の意味を考えるにつけ、一連の”出来事”をつなぐ、得体のしれない”何か”に惹きつけられる、自分のこだわりが、ある意味恐ろしかった。
何故かははっきりわからないが…。

...


そして、その神社に着いた。

車を止め、かなりの角度の石段に目を向けると…、およそ50段はあると思われる石の階段には、日陰のせいか苔がこびりついていた。

秋川は歩を進めた。

”この上だ”

秋川は、まるで自分がこの地で”あの日”を体験したかのような感覚に襲われながら、蹴上げの高い石段に足をかけた。





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