息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
追跡/その3


「…結局ね、裕ちゃんなんて男の子、この辺にはいなかったんですよ」

「…」

晴子は話を続けた。

「その時は律ちゃん、やっぱり外の子でしょ。いもしないない子を作り上げて、嘘つきなんじゃないかって。みんなに相当責められて、泣いちゃったらしいんですよね。それで、なんとなくバツが悪くなって、その日はそのまま、みんな帰ったらしいんですけどね」

秋川は、次第に強まってくる陽射しに汗をにじませながら、晴子の回想に吸い寄せられるように聞き入っていた。

「…その帰り道、うちの子が律っちゃんに改めて聞いたらしいんです。神社で言ったこと、本当なのかって。律っちゃん、嘘じゃないって、帰り道でも泣きながら訴えてたらしんですよ。うちの子も、律っちゃんはそんなウソつく子じゃないって、子供ごころに思ったんでしょうね。ウチに帰って、彼女のこと、かばってたんですよ。それは本当のことだって。だけど、裕ちゃんって子は誰も見なかったし、これは、不思議な話だって。夕食のときは家族で、みんなでね、首をかしげてましたよ…」

ここまで話すと、晴子はもうとっくにぬるま湯になってるであろう、両手で握ったままの麦茶をグイッと一気に飲み干した。
そして、その後はやや目を細め、再び話し始めた。

...

「…その話、実は続きがあってねえ。その日の1週間ちょっと後のことなんですけど、隣の部落の小学校2年生だったかしら、女の子があの神社で夕方、やはりポコペんやってて行方不明になってね。今だに消息わからないんですよ。生きていれば、律っちゃんとほぼ同い年ですよ。単なる偶然だとは思うけど…」

”まるで、神隠しだ。まさに…”

秋川は、当初とは別人のように神妙な顔つきになっている晴子へ、あえてこう尋ねた。

「お宅のお子さんは今、その時のこと、なんて仰ってます?」

「実は、今だにアタマが整理できていないみたいなんですよ。それこそ、あの神社の律子ちゃんのこと、大人なってからも時々、口にして」

そう言った後、手にしていたグラスを勢いよくテーブルに置いて、思い出したかのように言った。

「昨日、律っちゃんにもこの話ししたら、これからうちの息子に会いに行くって言ってましたよ。務めてる学校教えたから、昨日会ったんじゃないかしらね。息子、アパート借りてここには住んでないんですよ。だから、昨日どうだったかは聞いてませんけどね。全く、そんな遠くないんだから、ここから通えばいいのにねえ…。家賃だってかかるのに、もったいない」

最期は息子の愚痴になっていたが、秋川は晴子を凝視しながら、話の”続き”を待った。




< 33 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop